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女神の頭に伝わってくるのは、決してやわらかいとは言い難い、ほどよい硬さのふとももの感触。それは、弟を男性だと意識させるのに充分な効果を果たしていた。
「痛かったら言えよ」
「ん……早く始めなさいよ」
「はいはい……っと」
耳の中に異物が入り込んでくる感覚に、思わず女神は目を瞑る。
しかしそんな恐怖はほんの一瞬のうちで、いざ掃除が始まると、カリカリという音がむずがゆくも心地よい感覚に変わった。
「ふぅ……ん、はぁっ……」
メイドほどではないが、女神も耳が敏感な方。その気持ち良さに、思わず吐息が漏れてしまう。
思えば、他人に耳かきをされるのなんて、いつ以来だろうか。まして異性にそれをされるのは、これが初めてのことだ。
「お前、結構溜まってんな……ちゃんと掃除してんのか?」
「しっ、仕方ないじゃない、自分の耳に棒突っ込むの……こわいんだもん」
幼い頃はお風呂上がりの寝る前に、母に耳掃除をしてもらったのを、女神はよく覚えている。
しかし小学校高学年頃からだろうか、母の仕事が忙しくなり、親子一緒の時間は急速に減っていった。
それでも多忙な日程を縫ってよく可愛がってくれた母だが、いつしか耳かきをしてもらうという機会は完全に失われていたのだ。
それ以降、女神は自分で耳を掃除する他なくなったのだが、恐怖心からかあまり上達することはなく、現在に至っている。
「子供かお前は。それくらい一人でできるようになれっての」
「うるさい……こわいものはこわいのよ……」
通常ならば、もっとムキになって反論するところではあるのだが、耳掃除の最中ということもありその言葉はどこか弱々しい。
単純に動くと危ないのもあるが、それ以上に心地良さに浸っているのだ。なるほど確かに、これはメイドが安心しきって寝落ちするわけだ、と女神も納得するほどに。
「おっ、めっちゃでけーの取れた。すっきりするなー、こんなの取れると」
「やめてくれる!? すっごい恥ずかしいんだけど!」
悪意なく排除した耳垢の情報を教えてくる弟のデリカシーのなさには、流石の女神も声を荒げる。
女神は頬を赤らめて恥じらっているが、弟はそれに全く気付くことなく、次の一言を言い放った。
「じゃ、反対もやるから、顔こっちに向けてくれ」
反対側……即ち、女神が弟の方を見ながら耳掃除を受けなければならないということ。
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