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「ん? なんか言ったか?」
「なにも言ってないわよ! それよりさっさと反対側向きなさい!」
どうやら先ほどの悪口は聞き流していた様子。
あまり追及されても困るので、強引に話をぶった切った。
「な、なんで怒ってんだよ……」
「別に怒ってないし! ほら、早くして!」
「やっぱ怒ってんじゃん……」
どうしてこんなにカッカしているのか、弟にはさっぱりわからない。つまるところ、宥めようも無いわけで。
これ以上怒らせても仕方ないので、大人しく従うことにする。
弟は体勢を変えるために、一度軽く頭を上げた。が、そこで自分の側頭部に、何か大きくてやわらかい感触が。
「んっ……!」
「~ッ!? わ、悪ぃ!」
パジャマ越しにも伝わる双丘の感触は、女性経験に乏しい弟を動揺させるには充分すぎる。
意図しないハプニングに、女神も最初は驚いたが、結果として弟を赤面させることができたので、精神的に優位に立つことが出来た。
「や、やっぱりこれは、冷静に考えたら……まずいんじゃねぇのか? その、膝枕で耳掃除って……」
「なにがまずいのかしら? あんたはさっき、同じことを私にやったでしょ」
「いやいや、俺がお前にするのと、お前が俺にするのでは意味が全然違うっていうか……」
面白いほどのうろたえ具合に、女神も満足げだ。しかも、弟には逃げ場もない。
その優越感はなかなか味わえるものではなく、もう少し余韻に浸っていたい。弟の部屋の扉が開いたのは、そう考えていた時だ。
「おい弟ォ、ドブ雌見なかった……か……?」
「「あっ……」」
それは、絶対にこの場面を見られたくなかった、見られてはいけない者の来訪を意味する。
だが、ばっちり目が合い、言い逃れは不可能。魔王の口元がニヤニヤと歪み始めるのに、そう時間はかからなかった。
「え、なに? お前らってそういう仲なの? かぁーっ、見せつけてくれちゃってよぉー!」
「ち、違っ……! 私たち、別にそんなんじゃないもん……!」
ここぞとばかりに冷やかし、煽り立てる。魔王からすれば絶好のネタだ、この機を見逃すわけもない。
咄嗟に反論した女神は、つい感情的になってしまい……手に持っていた耳かき棒を、勢いよく弟の耳に突き立ててしまった。
「ぎゃああああああッ!?」
ここから先は地獄絵図。
騒ぎに気付いた勇者が仲介に入るまで、女神は魔王に煽られ続け、弟は激痛に悶えるはめになったのだった。
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