1090人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんでわかったんだ?」
他にも言いたいことはあった。だが、弟がようやく絞り出した言葉が、それだった。
勇者から聞いた話によれば、今の魔王少女に、この姿より未来の記憶は引き継がれていない……それなのに、どうして容姿の変化した自分のことに気がつけたのか。
「わかるよ。大きくなっても、クロはクロ。私の弟なんだから」
なんでもないように笑いかけてくれるその表情は、まさに弟が知る姉そのもので。
正直、懐かしさに崩れ落ちそうになる。
けれど、そんな暇はない。きっと目の前の幼い姉は困惑しているはずなのだ。
「……とりあえず、順を追って説明するか。いや、その前に服をなんとかしなきゃな……そのままじゃ動きづらいだろ」
心身が子供時代に戻っても、着用する衣服は現代の魔王のジャージのまま。
それも、魔王は女性としてはなかなか高身長であるため、この頃の魔王少女からしたらぶかぶかである。
「あれ? 言われてみれば、こんな服持ってたっけ?」
「それも含めて全部話す。その格好のまま動き回ったら絶対転ぶだろ、姉ちゃん」
「そんなことないって! 確かにちょっと動きにくいけど、簡単に転んだり……あぶっ!?」
言ったそばから、余ったズボンの裾を踏んづけて頭から転んだ魔王少女。
こういうところも、何一つ変わっていない。今も昔も。
「えへへ……ほんとだ。クロの言った通り、転んじゃったね」
「言わんこっちゃない……」
弟は転んだ魔王少女の元へ歩み寄り、手を取って立たせてやる。
そして、魔王少女が鼻血を垂らしているのに気付いた弟は、ポケットから取り出したハンカチでそれを拭ってあげた。
「……ほら、綺麗になった。次は気をつけろよ」
「うんっ。ありがとね、クロ」
素直にお礼を言って笑う魔王少女。その笑い方は、つい最近見た白魔王のものと重なって見える。
きっと、何事もなく成長していれば、あの性格になるんだろう。そう考えると、胸が締め付けられる思いになった。
「なんだか本当に頼りになるね、クロ。私がしっかりしなきゃいけないのに」
「今のお前は俺より子供だ。子供がそんなこと考えるこたァねぇよ」
先ほどと同様笑ってはいるものの、魔王少女はどこか申し訳なさそうにしている。
弟からしてみれば、思い上がりも甚だしい。少女に気を遣われていては、むしろこちらの方がやりにくいというもの。
最初のコメントを投稿しよう!