LV89 やり直せる過去があったとして

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「なんでわかったんだ?」 他にも言いたいことはあった。だが、弟がようやく絞り出した言葉が、それだった。 勇者から聞いた話によれば、今の魔王少女に、この姿より未来の記憶は引き継がれていない……それなのに、どうして容姿の変化した自分のことに気がつけたのか。 「わかるよ。大きくなっても、クロはクロ。私の弟なんだから」 なんでもないように笑いかけてくれるその表情は、まさに弟が知る姉そのもので。 正直、懐かしさに崩れ落ちそうになる。 けれど、そんな暇はない。きっと目の前の幼い姉は困惑しているはずなのだ。 「……とりあえず、順を追って説明するか。いや、その前に服をなんとかしなきゃな……そのままじゃ動きづらいだろ」 心身が子供時代に戻っても、着用する衣服は現代の魔王のジャージのまま。 それも、魔王は女性としてはなかなか高身長であるため、この頃の魔王少女からしたらぶかぶかである。 「あれ? 言われてみれば、こんな服持ってたっけ?」 「それも含めて全部話す。その格好のまま動き回ったら絶対転ぶだろ、姉ちゃん」 「そんなことないって! 確かにちょっと動きにくいけど、簡単に転んだり……あぶっ!?」 言ったそばから、余ったズボンの裾を踏んづけて頭から転んだ魔王少女。 こういうところも、何一つ変わっていない。今も昔も。 「えへへ……ほんとだ。クロの言った通り、転んじゃったね」 「言わんこっちゃない……」 弟は転んだ魔王少女の元へ歩み寄り、手を取って立たせてやる。 そして、魔王少女が鼻血を垂らしているのに気付いた弟は、ポケットから取り出したハンカチでそれを拭ってあげた。 「……ほら、綺麗になった。次は気をつけろよ」 「うんっ。ありがとね、クロ」 素直にお礼を言って笑う魔王少女。その笑い方は、つい最近見た白魔王のものと重なって見える。 きっと、何事もなく成長していれば、あの性格になるんだろう。そう考えると、胸が締め付けられる思いになった。 「なんだか本当に頼りになるね、クロ。私がしっかりしなきゃいけないのに」 「今のお前は俺より子供だ。子供がそんなこと考えるこたァねぇよ」 先ほどと同様笑ってはいるものの、魔王少女はどこか申し訳なさそうにしている。 弟からしてみれば、思い上がりも甚だしい。少女に気を遣われていては、むしろこちらの方がやりにくいというもの。
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