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「……で、結局着替えはどうするか」
まだリビングは整理している途中だが、一旦それは後回しだ。
今の魔王の背丈に合う衣服を探さなければ、危なっかしくて仕方ない。
そして、魔王少女を見ていると、城のある人物と重なってきた。
「メイドー! いるか!? ちょっとこっち来てくれ!」
「および、ですか、クロードさま」
たまたま近くにいたのか、呼んですぐ駆けつけたメイド。それにしたって速すぎるが。
「悪いんだが、お前の服を貸してやってくれないか? ちょうど身長も同じくらいだろ」
「はい、わかり、ました」
メイドは特に疑問に思うこともなく、弟の指示に頷いた。
かつて勇者や女神とともに、魔王姉弟のアルバムを見たことのあるメイドは、目の前の少女が魔王その人であると、既に把握していたのだ。
何故子供の姿になっているのかまでは、そもそも深く考えようとさえしていない。
「私と同じくらいの歳で、メイドさんとして働いてるなんてえらいねぇ。尊敬しちゃうよ」
「ありがとう、ござい、ます」
魔王少女は、自分と同年代のメイドの少女をストレートに褒めた。
メイドと言えば、自分が知る限りでは自分自身よりも年上の人ばかり。故に、弟に雇われたメイドのことが珍しく映るのだろう。
「……じゃあ、ほら。乗れよ、姉ちゃん」
「えっ?」
「今からメイドの部屋行くからよ。階段昇らなきゃならねぇし、また裾踏んづけたら危ねぇだろ」
弟は魔王少女に背を向け、その場で屈み込む。彼女をおんぶしようとしているのだ。
最初は戸惑ってはいたものの、魔王少女は遠慮がちに弟の背に身を預けた。
「……本当に大きくなったんだね、クロ」
「まあな。あれから何年経ったと思ってる」
この時点での魔王少女からしたら、現在の弟は12年後の姿に当たる。その年月は、弟がたくましく成長するのには充分すぎる時間だった。
そんな弟の背に、感慨深くも寂しさを感じて揺られる魔王少女は、なんとなく事情を察知しつつあった。
「ここは……私から見たら、未来の世界……なのかな?」
「間違いじゃねぇな。正確には現在のお前の時間が巻き戻って、こうなってんだ」
時の巻き戻った魔王少女視点からすると、未来の世界に飛ばされたという解釈に違いはない。
例え現実はその真逆であっても、彼女自身にはそうとしか認識できないのだから、魔王少女にとっての真実はそれなのである。
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