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不可解かつ予想外、突然の出来事に一瞬だが脳の処理能力が混乱する。
優秀な彼女ら三名ならば、即座に立て直すことができるだろう。だが、そのほんの僅かな隙を突く。そのための作戦である。
驚いているその間に、茂みから狼以外のものも飛び出してくる。そう、魔王弟混合チームだ。
「一気に四人……!」
躾役に向かっていくのはメイド。銃口を向けながら飛び掛かり、水を浴びせることに成功した。
しかし躾役も、水に濡れる前に咄嗟に引き金を引いており、メイドの服を桃色に染めた。先ずは相討ちである。
「覚悟しなさいっ!」
「三人がかりなら、わたくしに勝てると思いましたかぁ?」
女神、衛兵、勇者は三人で世話係を取り囲み、一斉発射。しかし、全てにおいて圧倒的強者たる世話係には通用せず、色水は全て躱された。
そのまま流れるように、三人の顔面に向けて狙い撃ち。あっという間に形勢逆転だ。
「あちらのメイドさんくらいの身体能力なら兎も角ぅ、あなた方程度なら三人でもわたくしには及びませんわよぉ」
「確かにその通りッス。でも!」
「僕たちだってただ倒されるのをわかっていて攻めるはずないだろう?」
「一瞬気を抜いた、あんたの負けよ!」
女神がそう言ったその瞬間、世話係の死角……即ち頭上から、多量の色水が降り注ぎ、その体を青色に染め上げた。
「な……!?」
視界の外からの不意打ち。受けてから気付いても、もう遅い。
そう、女神はあらかじめ、用意されていた数リットルもの色水をペットボトルから出し、それを念力で球状に固めたものを世話係の頭上に配置していた。
低い体勢から牽制してくる狼に気を取られ、頭上の異変には気がつかない。まんまと罠を設置し、自身が水を浴びると同時にそれを解除。
すると、形を失った水球は重力に従って下へ落ち、世話係へと降り注ぐ。そういうからくりだったのだ。
「ツカサちゃま、ツバサちゃまっ!」
一瞬のうちに頼れる従者二人を失った妹は、軽いパニック状態に陥ってしまう。
いくら優秀とは言え、まだまだ幼子。想定外の出来事に冷静さを欠くのは仕方のないことだ。
……だが、そこを見逃すほど、姉も兄も甘くはない。
「そこまでだ妹。勝負あったな」
妹を左右から挟む位置に、魔王と弟。もちろん水鉄砲を構えており、妹が今から咄嗟に構え直したところで先に水を被るのは目に見えている。
将棋で言えば……完全に詰みの状況だ。
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