LV98 手段、不選

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「……はじめから、組んでいらしたのですね」 「ああ。失望させたか?」 この状況を鑑みれば、その結論に辿り着くのは当然。負けが確定したこの段階で、どういうわけか妹の頭は冷静だった。 そんな妹に対して、弟は心境を尋ねた。末っ子に上の姉弟二人掛かりで挑んだという罪悪感がそうさせたのかもしれない。 「いえ……そこを含めて読めなかったのはわたくしの落ち度ですわ。むしろ、わたくしのことをそこまで評価してくださっているなんて、感激いたしますわ」 だが、例え共謀されようとも、その程度のことで二人に対する好感度は下がらない。 姉弟が思っているより、妹は彼らのことを慕っていたのだ。 「……私らじゃこうでもしねーと妹に勝てんからな。不意打ちと初見殺しでようやくコレだ。妹が思ってるより、私たちは大層なもんじゃねぇ」 むしろ本質はそこではなく、妹が姉弟のことを買いかぶり過ぎているということ。二人のことが好きなあまり、盲信的なまでに好意的に解釈をすることが多々あるからだ。 だからこそ、姉は妹を突き放すような発言をした。 これからは本当の家族であるために。互いが互いに、ありのままの姿を受け容れるために。 「私は妹にずっと嘘吐き続けてきたな。私が部屋から出るようになったのは二年前からで、その間も異世界へ派遣されてただのなんだのと適当言って、引きこもってたことを隠してた」 そう、優秀すぎる彼らの妹は、今までその事実を知らずに生きてきた。 もともと都合の悪いことはひた隠しにされてきたとは言え、身内の妹にさえ誰もそのことを話すことはなかった。 曰く妹には悪い影響だと。 故に、妹は優秀で立派な姉の姿を想像で膨らまし続けてきた。弟に関しても、城内で顔を合わせることはほとんどなかった為に同様である。 そんな理想の姉像が、妹の向上心を育む一つの要因となっていることも、事実ではあるのだが。 「隠してたのは別に私の意思じゃねーけどな。私だって妹が生まれたことを知ったのは割と最近の話だ。ただ、純粋に慕ってくれるお前の目ぇ見てると……どんどん話しづらくなっちまってよ」 引きこもりを脱した後も、そもそも顔を合わす機会が少なかったのだ。なんとか誤魔化せると思っていたし、実際になんとかなってきた。 だがそれももう終わり。この偽りの姉妹関係に、終止符を打とう。 「許せとは言わねぇ。だがこれだけは言わせてくれ。すまなかったなァ、妹」 「……ふふっ、なにを仰いますの? どんな過去があろうと、お姉ちゃまはわたくしの大好きなお姉ちゃまですわ! 今でもわたくしにとっては立派なお姉ちゃまですのよ!」 ……いや、そう考えていたのは、姉弟側だけだったらしい。 妹はとっくに、姉弟に心を許していた。例え聞かされていた経歴が嘘であろうと、妹にとって良い姉、良い兄であることに何も偽りはないのだから。 「でも、本当のことを話していただけて、嬉しかったですわ。お姉ちゃま、お兄ちゃま……後継戦最終ラウンド、がんばってくださいまし!」 二回戦は、妹の笑顔で締めくくられた。 その一言と笑顔で、魔王と弟は呪縛から解放された……そんな気がして、心なしか晴れやかな表情で森から転送されたのである。
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