LV98 手段、不選

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「やったわね愚民ーっ! あんたの作戦がばっちり決まったわ!」 再び戻ってきた大魔王城中庭で、最初に弟を迎えたのは先に転送されてきていた女神だ。 相当テンションが上がっているらしく、思わず弟にハグをする。その行動は読めていなかったのか、弟は顔を真っ赤にして固まってしまう。 「よ……よせ、女神……こんな衆目の前で……」 「……へ?」 弟に指摘され、この場にいるのが自分たちだけではないと思い出した女神は、慌てて弟から距離を取った。 そして、ツンツンした態度と素っ気ない表情で、必死に自分を取り繕うのだ。 「ま、まあ、この女神が手を貸してあげてるんだから当然の戦果よね! あんた、優勝するまで調子に乗ったらダメなんだから!」 本当ならば、先ほどのように素直に喜び合いたいのが女神という者の性格である。 だが、自分のプライドが邪魔をして、つい強がった台詞を口にしてしまう。なんともまあ面倒なタチだが、そこも含めて女神なのだ。 そんなことは、とっくに弟は見抜いている。だから、今度は少しだけ、弟の方から歩み寄る。 「ああ、もちろん。俺がここまで来れたのは、お前のおかげだよ、ヒカゲ」 「えっ……あ、うん……」 自分の言い分に対して呆れたり、大きな声で怒鳴り返されたり、そんな反応ばかりをされてきた。今回もそうだと思っていた。 でも違う。女神に返ってきたのは穏やかな肯定。そして、彼から初めて、名前を呼ばれた。 予想もしなかった返答に、女神は言葉を失い、小さく頷くことしかできなくなっていた。この胸の高鳴りはなんだろう、この心臓のあたりを包み込む熱いものは。今までに感じたことのないそれに直面し、戸惑ってしまっているのだ。 「ユウシ、お前にも感謝してる。本当に頼りになるやつだよ、お前は」 「な、なんなんだいきなり……やめてくれないか、そういうの」 それに関しては勇者も同様で、戸惑いに加えて若干引いている。 立場こそ違えど、対等な友人同士でもある彼ら二人。だが決して友人以上のところまでは踏み込んでいかず、互いにとってベストな距離を保つことに注力していた。 ここでまた一つ、弟側から壁をブチ破られたのかもしれない。単なる友から、親愛なる友へと。 「……勝ってこい」 それ以上の言葉はいらない。声に出さずとも、通じるものはある。 女神と勇者、二人の視線に背中を押されながら、弟はゆっくり歩み出す。 「それじゃあ後継戦の最終決戦を……ん?」 「あー……そのことなんですが、一つよろしいでしょうか」 大魔王の進行を遮り、弟は手を挙げながら発言する。 会場の注目が全て彼に集まった時……静かにその口を開いたのだった。 「俺から一つ、提案があるのですが」
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