LV99 姉と弟

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「……あれ? もしかして二人とも……同時にダウンしてない?」 そう口に出したのは女神だったが、会場の誰もが騒然となった。 「まだ一撃もらっただけだぞ……?」「睨み合ってた時間の方が長かったな……」「てかこれ相討ちなのか?」「引き分けになったら、後継者どうするんだよ」……などなど、様々な感想や疑問が乱れ飛ぶ。 困惑や不満、皆が抱える感情はそれぞれだが、共通するのは少なからず動揺しているということ。 「こ、これどーすんのよ!? さっさと試合止めて、傷の手当てしなきゃ……!」 「落ち着け女神」 今の状態の二人が、まともに動けるとも思わない。どこからどう見ても続行は不可能だ。女神が二人の元へ駆け付けようとするのは、至極真っ当な行動である。 だがそれを勇者は制した。 「まだ、どちらも負けを認めたわけじゃない。決着はついてない」 「今そんな場合じゃないでしょ!? やっぱりこんなのおかしいって! 後日違う方法で勝負しなおせばいいじゃない!」 「……それで彼らが納得するのなら、それでも良いでしょう。ですが、今の意識のない二人に女神様が触れた時点で、リーダーの敗北が決定してしまいますよ。そういうルールですから」 勇者、そして巫女はあくまで二人の取り決めたルールを尊重するようだ。確かに、そのルールに従うのならば、まだどちらも負けていないし、弟のチームメンバーである女神が関与することは反則になる。 そしてそれは、勇者や巫女だけでなく、会場にいる全ての者が証人となる。女神は動こうにも動けないというわけだ。 「……なら、どうするつもりよ?」 「どうもしない。待つだけさ」 この最終戦において、周りの者ができることは何一つとしてない。 全てを当人たちに託すしかないのだ。そのことは、勇者はもちろん、女神も承諾したはずである。 「……貴様も一度はこの勝負方法を飲んだだろう。気持ちはわかるが堪えるんだ」 「……あんたも」 「ああ。もどかしいと思ってるさ。でもいずれはこうなる運命だったんだ。あいつらは……一対一でケリをつける。そうでないと、きっと過去に囚われたままだ」 痛々しい二人の姿を見ていられないのは、魔王城の面子は皆同じだ。それでもその場を動こうとしないのは、あるいは主の命令であり、あるいは友人の為であり、しかし最終的に決断を下したのは本人たち自身。 そう、過去の確執によりすれ違ったままの姉と弟が和解するチャンスは、ここしかない。 何者にも介入されず、かつ姉弟喧嘩という体裁を取り、それでいて多くの目撃者のいるこの場こそが、二人をただの姉と弟に戻し得る。
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