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「……んなの決まってんだろォ。復讐だよ、復讐……後継戦の前にも言ったと思うんだが?」
「違う! ……本当に姉ちゃんがそんなことをしたいとは思えない」
「はっ。何を今さら綺麗事を……」
弟はあくまでも、姉の良心を信じたいのだろうか。いや、単に聞きたかったのはそこではなかった。
やはりどうしても納得がいかない。引きこもる以前の彼女と、引きこもりを脱した後の彼女の変貌ぶりが。
そのどちらも知る弟からすれば……きっと、この復讐というのも魔王の本心の一つには違いない、ということもわかってはいた。
「確かに、今のお前はそうなんだろうよ。でも……引きこもりになる前の姉ちゃんなら、絶対にそんなことは望まなかったはずだ。その姉ちゃんがどうしてそれを望むようになったのか……俺はその理由が知りたい」
未だに弟の心は、過去の姉に縋り付いたままだ。
優しかった時の姉も、捻じ曲がってしまった今の姉も、両方同じ姉であることに違いないのに、まるで別人のように感じてしまっている。
結局、弟の時間は右目を失った時点で止まったままなのだ。
「……お前はさァ、自分が何やっても周りから嫌われていく理不尽の味ってヤツを知ってるか?」
「……わかるよ。俺だってお前と同じ落ちこぼれだったからな」
自身の生まれた環境と、実力の乖離。そのギャップが生む期待からの失望は、十代前半の少女にはあまりにも重いものだった。
そしてそれは、弟も同じ。だからこそ姉弟は唯一理解し合える存在で、かけがえのない存在でもあった。
「何をしても上手くいかなくてさぁ! 大人は不自然に贔屓するか腫れ物扱い! 子供からは妬まれバカにされ見下され! こんなんどうしろってんだよ!? なァ!? 私がなにかそいつらにしたわけでもねぇのにさぁ! 結局気に入らねぇってだけなんだよ、どいつもこいつも私のことがさァァァァッ!」
何が彼女の引き金となったのかはわからない。ただわかるのは、魔王のこれは咆哮とも呼べる純粋な怒りだ。
血を流し、意識が混濁としているからこそ、表層に現れたもの。地下深くに溜め込まれたマグマが一気に噴き出すように、魔王は感情を爆発させている。
「だから……だから、私にとって弟だけが……」
「姉ちゃん……」
ひとしきり叫んだ後の魔王の顔は、まるで心臓を直接握り潰されているかのように苦しそうだった。
それを見て弟も心が痛む。幼い自分の軽率な言動で姉を傷つけた。姉の人生を歪ませたのは自分なのだと、そう思い込んでいるから。
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