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「……まァ絶望したよな。もうどこにも縋れる場所はない。唯一の生きる理由も見失っちまったんだから」
魔王にそこまで言わしめる転機は……やはり弟と袂を別ったあの日しかない。
弟が魔王に失望したのは、自分の理想の姉像が壊れたからという単純なもの。実際は弟と同じ落ちこぼれで、そしてそれを隠し通すことなどできるはずもなかったのだ。
だがこの認識の齟齬こそが、魔王にとってはあまりにも重大過ぎた。
結局弟も、自分に過剰な期待を寄せるだけ寄せて、ありのままの自分を認めようとしなかった……彼女は、そう捉えてしまったのだ。
「それで他人と会うのを拒んだのか……」
たった一人、心を許していた弟に自身を否定されてしまったことで、ギリギリのバランスを保っていた幼い魔王少女の心は壊れてしまった。
大魔王の息女としても、たった一人の姉としても振る舞うことに疲れ切った彼女は……独り部屋の中に閉じこもることを選んだ。
「しばらくは何もする気が起きなかった。ほとんど自分のベッドで寝て過ごし、起きてる時も壁か天井を見つめるだけ。完全な無気力状態ってやつだ。でもそんな状態も長くは続かねぇもんでさぁ」
一体どれほどの時間を無為に過ごしたのか、今となっては本人も覚えていない。
いや、そもそも虚無に時間も何もないのだ。時間感覚など、とっくに消え失せていた。
「そのうち暇にも耐えかねてネットに手ぇ出し始めるだろ。そこからゲームだのアニメだの漁りまくって……ある時気付いたよな。開き直っちまえば楽んなるってよ」
「それでそんな性格に……」
言われてみれば納得できる話ではある。魔王の、自分に才能がないことを自覚しながら努力もせず好き勝手に振る舞う態度は、そうとしか考えられない。
だがもう一つ、何か引っかかる。時折、自暴自棄になったような、我が身を省みない無謀な行動に出ることがあることまでは、それでは説明がつかない。
「どうせ何しても嫌われんなら、嫌われることやって嫌われた方がいい。そうだろ?」
魔王は理不尽に耐えられなくなって殻に篭った。何も悪いことはしていないのに、どんどんイジメだけがエスカレートしていくという理不尽に。
だから自分から嫌われようとした。嫌われることを目的としているのだから、嫌われるのは道理だ。傷つく理由もない。
実際、引きこもっていても自分の悪評はネットを通して聞こえてきたし、外に出てからも陰口悪口が気にならなくなった。
世間体を気にせず傍若無人に振る舞い続けていたら、いつのまにか誰もが魔王を避けるようになった。
最初から一人なら、好きも嫌いも関係ない。
「なのに……どうしてお前は……お前らは、私を一人にしてくれなかったんだ……」
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