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魔王は自ら孤独を望んでいた。
それは、本人の心を守るための防衛手段であり……そして何より、自分の家族を守るための手段でもあった。
「私が一人になって……私だけが嫌われてりゃ、それで済んだ話だろ……」
全てのヘイトを自分に集めた上で、大魔王家から追放される。それが彼女の描いた最良のシナリオだった。
同じく落ちこぼれである弟も、魔王のお陰で相対的にまともな評価になる。そしてその弟や家族にすら嫌われることで、家からの縁を断とうとした。あらゆる悪意を抱え込んで、誰も知らない場所にひっそりと消えるつもりだったのだ。
だが……彼女がどれだけ身勝手に振舞っても、弟は魔王を見捨てなかった。他の家族に関してもそれは同様だ。
……では何故そんな回りくどいことをしたかと言えば、答えは単純。
魔王は、家族を嫌いになることができなかったからだ。だから家族の方から縁を切らせるように振舞った。結局、失敗に終わったわけだが。
「……見捨てるわけねーだろ。俺は……姉ちゃんから数え切れないくらいの恩を貰ってんだからよ」
自分が辛い時に支えてくれたのは、いつだって姉であった。幼い彼は姉に頼ることばかりで、姉がどのような思いだったかなど考えもしなかった。
だからこそ、あの時の衝動的な言葉をずっと後悔し続けているし、もう二度と姉を見捨てないと誓った。
その思いは、今も変わっていない。
「子供の頃、姉ちゃんに話した夢……今も変わってねぇぞ、俺は。全ての民に慕われるような、そんな王になる。もう……なんの心配もかけさせねぇから」
「……お前に、そんなことできるわけねぇだろうが」
そんな理想をいつまでも語れるほど……その理想をいつか実現できるとも、魔王は全く思っていない。ずっと側で弟を見てきているから、余計にそう思う。
だからこそ、彼女には彼女の王道がある。他の者から見れば、邪道もいいところだが。
「私は全ての者に憎まれる王になる。どっかで革命起こされて……華々しく処刑台の上で死んでやらァ」
何も出来ない自分にできる唯一のこと。自分を殺し、弟を生かす。それが姉として生を受けた魔王の生き様。
腹を割って、互いに全ての中身をブチ撒けた。どちらにも譲れないものがあった。
決着の時は近い。次が、本当に最後の一撃だ。
「覚悟はいいか、クソ童貞!」
「これで終わりだ、クズニート!」
同時に踏み出し、同時に放たれた両者の拳。
会場に残る誰もが、その様子を目撃している。瞬き一つせずに。彼らは今、歴史の証人となったのだ。
そして…………。
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