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落ちてくる水滴たちがなくなると同時に、さっさとこの場を退散してしまおう。
そう心積もりをして軒下から動き出す瞬間を待ち構えるあたしの右腕に、いきなりヒンヤリとした感触が伝わり慌てて視線を下へずらした。
「え……? ど、どうしたの?」
視線の先に映しだされたのは、あたしの右腕を腫れ物に触れるくらいの強さで掴む少女の左手。
顔は今だに俯いたまま、その華奢な左手だけが人形のパーツを変えたみたいに動いていた。
今までさんざん無反応だったくせに、こんなタイミングでアクションを起こしてくるとは。
予想外の事態に若干困惑しながら、あたしは恐る恐る身を屈め少女に頭を近づけた。
「ひょっとして、具合悪くなった?」
思いつくことも特になく、ひとまずそう話しかけてみる。
「…………」
すると、少女は徐ろに右手を上げ、前方を指差した。
「え?」
つられるようにして、あたしはそちらを見やる。
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