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「ねぇ、あたしはそろそろお家帰るから」
乱暴に扱うためにもいかないためやんわりと手を離すよう訴えるが、女の子にそんな遠回しの表現は通じないものらしい。
「…………」
表情は人懐こく穏やかでも相変わらず無口なまま、あたしの腕をくいくいと引いて人形を持ったままの手で道路の先を指差した。
方角は、あたしの歩いてきた方向。それはつまり、家とは反対の方向。
「え? ……ひょっとして、一緒に来いって言ってる?」
嫌な予感を覚えつつそう問うてみると、コクリという頷きの返答。
「あー……」
一人で家に帰れないのだろうか。
嫌だよというのは簡単だけど、やはり良心がそれを押しとどめてしまう。
(まぁ、別にこの後は予定ないし、良いかぁ。こんな小さい子が歩き回る範囲ならそう遠くまではいかないだろうし)
乗りかかった船と言うやつだ。
あたしは覚悟を決めて気持ちを切り替えると、
「お家どこなの? すぐ近く?」
女の子に誘導されるまま、元来た道を戻ることにした。
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