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一瞬。本当に、ほんの一瞬。
お母さんの足に隠れるようにして立つ、白いワンピース姿の少女を見たような気がした。
それは錯覚のようにすぐに消え、薄暗い夜闇に変化してしまう。
「どうか、なさいましたか?」
突然振り向いて動かなくなったあたしを不審に思ってか、お母さんが心配そうに声をかけてくる。
「あ、いえ、何でも……」
ハッとして首を振りかけたあたしは、そこで一度言葉を止め一秒ほど逡巡した後に声を継ぎ足した。
「あの……、もしご迷惑でなければ、そのうちまた窺っても良いですか? その、ちゃんとお線香とか上げてあげたいので」
「え?」
言われたお母さんは最初ポカンとした表情を見せたけど、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべると大きく頷いてくれた。
「ええ、もちろんです。娘もきっと喜びます」
「良かった。ありがとうございます」
こちらも笑顔で頷き返し、そこにいるであろう見えない少女へ小さく手を振っておく。
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