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また声が聞こえた気がしたが、俺はそれを無視して、背後も見ずに駆け出していた。
廃病院が見えなくなる位置まで走って、ようやく足を止める。
さっきのあれは見間違いじゃない。確かに見た。
玄関の隙間から招くように手を動かす友人と、その背後で、じっと俺を窺っていた無数の目。あれは絶対見間違いじゃない。
どうやら友人は、本当にあの廃墟に引っ越してしまったらしい。そしてもう二度と外出することすらできないのだろう。
それが判ったところで、俺に何がしてやれるだろう。
人に言えば薄情だと罵られそうだけれど、あの状況から助けてやるなんて絶対無理だし、むしろ木乃伊取りが木乃伊になる。そもそも、あそこに入る勇気がない。
着信音にスマホを見ると、友人からのメールが届いていた。でも俺はそれを見ることなく、それきり友人のアドレスを着信拒否にした。
以降、友人は行方不明扱いとなったが、俺には真相を語る勇気かった。
…あれから数年。
長いことあの廃病院の近くに行くことはなかったが、先日噂で、あの場所が駐車場になることが決まり、建物が取り壊されるという話を聞いた。
あそこにいた友人や他の何ものか達は、肺病院がなくなったらいったいどこへ行くのだろう。…もしかしたら、他の廃墟に流れ着くのかもしれないな。
そんな思いが今も頭をよきるから、俺は決して、廃墟と呼ばれる場所には近寄らないようにしている。
廃墟マニア…完
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