夜雀が死を招く

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「恭弥、恭弥。目を開けて……お願い」  絵美里はベッドに横たわる恭弥の変わり果てた姿に抱き付き、すすり泣いた。青白い顔で酸素マスクをつけている恭弥。医師の話だと今夜が山らしい。そんなことってある。何かの冗談だと言って。  絵美里は恭弥の右手をしっかりと握り、祈った。 『私にまた笑顔を見せて』と。  集中治療室にいる恭弥の傍にはずっといられなかった。恭弥の両親がいたおかげで一緒に入室することは出来たが、もうここへは来ることは出来ないかもしれない。奇跡を信じるしかない。このときばかりは神様に祈っていた。普段、信仰心があるわけでもないのに都合のいい時ばかり神頼みするなんて。  絵美里は、嘆息を吐き項垂れて重い足を引き摺るように病院を後にした。  恭弥の両親に挨拶してくるのを忘れてしまった。それも仕方がないことだと許してくれうだろう。恭弥の両親だもの。  絵美里は月明かりに垂らされた背後にある病院へと振り返り、誰もいないことを確認すると「恭弥、大丈夫よ」と少しだけ口角をあげて笑みを浮かべた。 ***
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