尚人の場合。

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刑事の話を、尚人は俄には信じられなかった。 弥生は、由佳が殺された同じ日の深夜、自宅のベッドの上で水死していた。 『ベッドの上で?ベッドの上で水死、ですか?』 尚人はそう訊き直していた。 「ええ。ベッドの上で、です。何かご存知ないですか?」 表情ひとつ変えず、刑事が訊き返してくる。 『いえ。。。何も。。。でもベッドの上で水死なんて、おかしくないですか?』 尚人は感じたままを訊く。 「そう、我々もね、何処かで溺れさせたのを、ベッドまで運んだのかと思ったんですよ。だけどそれでは説明のつかない箇所がありましてね。」 『説明のつかない箇所、ですか?』 尚人の言葉に、刑事は深いため息をついた後。 「ええ。水がないんですよ。」 『。。。は?』 意味がわからず、素っ頓狂な声が出てしまう。 「何処かで水につけ溺れさせて、その後ベッドまで運んだのなら、弥生さんの体についた水が、部屋にこぼれていたり、布団が濡れたりしているはずでしょう。」 そこまで言ってから、身を乗り出すようにして 「しかしですね、弥生さんの部屋はおろか布団にも水はこぼれておらず、しかも弥生さんの体自体、全く濡れていなかったんですよ。」 そう説明してくる。 『。。。。』 なんと答えていいのかわからず、絶句する尚人。 「殺された日と、部屋に運ばれた日が違うのかとも考えましたがね。それだと死亡推定時刻が説明つかなくなってしまうんですよ。」 そこから数時間色々と訊かれたが、弥生の死亡推定時刻には同僚と会社で残業をしていた尚人には、答えられる事は何もなく、程なくして帰された。
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