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「ただいま、おふくろ。ん?今から出かけるのか?」
開いたドアの向こうから姿を現したのは、麻也の姿だった。
凛々しい眉、黒い短髪、高い身長。
見間違えるはずもない、紛れもない我が息子。
白いスーパーの袋を持った麻也の男らしくたくましい腰の周りを、ちょこちょこと動き回る、ふたりの孫の姿。
「パパぁ早く、買ってきたアイス食べようよ!」
「早く早くー!」
「おうおう」
麻子は、息子と孫たちのやり取りを呆然と眺めていた。
「ま、麻也…。あんた…どうしてここに?」
麻也は通帳を握りしめている麻子をぽかんと見た。
「は?」
「どうしてここに?」
「『どうしてここに』って…スーパーから帰ってきたんだが。おふくろ、とうとうボケ始めたか?」
麻也は心配そうな表情で、麻子を覗き込む。
「だ、だって、あんた!いま、病院にいるんじゃなかったのかい?!」
麻子は叫んだ。
そして、ふと思った。
もしかすると……
さよならの挨拶なのか。
お別れを言いにきたのかもしれない。
いま目の前にいる麻也は、幻で。
幽霊なのかもしれない。
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