幻像線 (Phantom line)

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 手を向かいに伸ばして彼女の返事を待つが、アナは俯けた顔を左右に揺らした。 「ごめんなさい。すごく嬉しいけど、私……ロンドンにはいられない」  真摯に答える彼女の瞳はとても狂気に満ちて、それでいて澄んでいた。  けれども食事が運ばれて来た頃には彼女は笑顔に戻り、肉を豪快に頬張っていた。  その様子を見ながら私は前菜を口に運び、その後に魚を食す。  そうして数時間かけて食事を終えて外に出ようとすると、彼女は店のトイレに行くと言って引き返した。  数分で出てきた彼女は疲れた様子だった。 「アナ、顔色がよくない。どこかで休もうか?」 「ううん、平気」 「吐いてきたの?」  それには何の返事もせずに眉だけを動かした。  そうして外に出て、そのまま市場に続く夜道を歩いて行く。 「ワット、ごめんなさい」 「何が?」 「せっかくの、食事……」 「気にすることないよ。君のそれも、すべてはファントムのせいさ」  市場の建物が見えてきた辺りで雨が急に降り出した。  持っていた蝙蝠傘を開いてまた歩き出す。  ウインドウに移った自分と目が合う。  ネイビーのコートに身を包む、さも気取ったジェントルのように顎と鼻下に髭を伸ばし、格好だけは気丈に着飾っていた。 「観光客はともかく、ここはあまりいい場所じゃない。しとしと雨が降る(※A gentle rain is falling)夜にかつての処刑場……とくれば、幽霊の溜まり場だろう」  危険を察したのか、アナは簡単に頷いた。 「そうね。引き返しましょう」  彼女は振り返って来た道を戻ろうとする。
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