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そんなことを思いながら、キッチンで目の前のカップに睡眠薬を入れて湯を注ぐ。
そこにティーバッグをつけてリリィの前まで持って行く。
そうしてまた私の想像が働く。
何も知らない彼女がこれを飲んで15分くらいか、遅くても30分経つ頃には眠りに就いているに違いない。
そこで私は彼女の首に両手を当てて渾身の力で締め上げる。
16年間動き続けた、その呼吸が止まるのを、波のない水面を見つめるように眺める。
そして透き通っていく感覚にただ酔い痴れる。彼女にこれ以上の残酷な出来事が起きないようにと、私が悪霊になる瞬間だ。
「くっ」
馬鹿な想像に身体が反応し、私は背を丸めた。
「ご主人樣、どうしました?」
茶色い革の二人掛けソファーの右隣に座る彼女は私の背中に手を当てる。
「少し疲れただけだ」
自分の前の、睡眠薬入りのマグカップに口をつける。
毒のように苦いこれは週に数回飲んでいる特製のカモミールティーだ。
言うまでもないが、リリィにこれを飲ませたことは一度もない。
ただ、私の中だけで彼女を何度も殺めているのは確かだ。
想像という思考はいつでも自由なのだ。
頭の中でいくら彼女を犯そうと、そこに制約された決まりはない。
それは誰にでも許された唯一の完全犯罪なのだ。
「少し……音楽を聴いてもいいかい?」
「私は構いません」
「ありがとう」
立ち上がってオーディオ機器の前まで行く。
父の遺したレコードプレーヤーに盤をセットし、溝に針を落とす。
ジジッと蝋燭が唸るような音が上がって、少しすると曲が流れる。
〝Sunday is gloomy,
My hours are slumberless
Dearest the shadows I live with are numberless
Little white flowers will never awaken you
Not where the black coach of sorrow has taken you
Angels have no thought of ever returning you
Would they be angry if I thought of joining you?
Gloomy Sunday
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