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「夢でよかった」
曲が終わり、途端にリリィはそう口にする。
「本当にそうかな?」
私の問いに彼女はこちらを振り向く。
「いずれ、二人に別れは来る。親密であればあるほど残酷な別れが、ね」
カモミールティーを口に含んで、訪れる静寂。彼女はというと訝しげな顔でテーブルをじっと見つめていた。
きっと私の言葉の意味を考えていたに違いない。
「ああ、そうだ。この前買ったりんごを食べよう」
それが彼女に聞こえていたか、独り言だったかなどに興味はなかった。
ただ、何か良からぬ私の思考が、彼女ごとを消してしまうような狂気を感じた。
だから私はキッチンに行き、食べる気もないりんごの皮を剥くはめになった。
その艶やかな赤いカーブに沿ってナイフを優しく押し当て、りんごを親指で滑らせるように動かす。
繋がったりんごの皮は流れる血のように細く長く続き、やがてそれは左手に絡まった。
その瞬間、それは琥珀のように光る目を開く。私は手首に絡まる赤い蛇をナイフで切りつけた。
「アゥッ!」
鋭く鈍い痛みが左手首を襲った。それに私は全身を興奮させる。
その場に座り込んで血の流れる場所をもう一度切りつける。
「ご主人様!」
リリィの鋭く柔らかい声に悪霊が抑制されると、私はたちまち深い眠りへと落ちて行った。
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