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アナスタシアは次の日に病院にやってきた。
リリィがどこまで彼女に情報を提供したかは知らないが、眠ったか眠っていないかの境目で喘いでいた私の様子をアナは見ていたに違いない。
目を開けると左側にグレーのダッフルコートを着た彼女がいた。
視線が合うと彼女はコートを脱ぎ出し、隠されていた骨格を露にした。
細く骨張った誘惑的な鎖骨に、ハンガー(※hunger or hanger)のような三角形と数本の筋が浮き出ている。
「ワット、あの後何があったの?」
彼女のその一言で、リリィが何も話していないことが分かった。
「ファントムにやられた……君が逃げた後、ナイフで切りつけられたんだ」
彼女はその言葉に怯えた目をする。
「私……怖いわ」
「ロンドンに戻ってきて欲しい……僕の家に住んで構わないから」
彼女は戸惑いながら顔を俯ける。
「大丈夫だ、アナ。二人でいれば彼は手を出せない。これ以上心強いことはないんだよ」
穏やかな声で彼女に話しかける。
「このままでは君は幸せになれない。しばらくは僕の家で過ごして、落ち着いたら彼と話し合いをして、離婚すべきだ」
「でも……あなたに迷惑がかかるわ」
「僕は迷惑なんて思ってないさ、君がこれ以上苦しむ姿を見ていたくないんだ」
今まで以上に私は甘い言葉を放つ。
それは蟻を蜜で誘い込む花のように香しく艶やかに、一語一語を意識する。
「わかったわ、ワット。あなたと一緒に住むわ……」
「ありがとう、アナ。そうと決まれば、まずは僕をベッドから解放してくれないか?あの医者に、僕が暴漢に襲われて切られたことを証言して欲しい。前に言ったことは睡眠薬で夢を見ていただけだと……」
「分かったわ」
アナはうまくジルを言い包めたらしく、二日後には退院することができた。
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