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背の低い本棚の上に置かれた鉢植えアマリリスの葉は日に日に枯れ始め、その横の置き時計は刻々と静寂を知らせる。
私はその針を憂い見て、仕方なく重い腰を上げた。
壁に飾られた言葉たちが整理されることなく、ただ沈黙し合って、床を移動する私の音だけが耳を掠める。
上着を羽織った私を、部屋を出てすぐの窓がくすんだ光を放ちながら怪訝そうに見つめる。
ごもっともだ。
夜となく昼となく、私はここ二週間ほど書斎に篭ったままだったからだ。
「あら、ご主人様。お加減は?もう動いても平気なのですか?」
使用人という名目のロボットは大方、同じ台詞を繰り返す。
「ああ。だいぶよくなったよ。これから人と会う約束をしててね」
一階に下りたエントランスで、かつてのチャーリーが食したような黒く光る靴に履き換える。
「それは、それは。あ。では、お食事は?」
「食べてくるから、用意はしなくていい」
「そうですか。あ、今日は午後から雨が降るようなので傘をお持ちになって下さい」
彼女には雨の日は決まって痛くなるという傷がある。
そのレーダーは予報よりも正しい。
天気までも予想するという便利機能つきで一日50ポンド。
身体の不調が続き、仕方なく住まわせた何でも屋だ。
「帰りは遅いかもしれない。先に休んでて構わない」
「分かりました、それではお気をつけて」
彼女は丁寧にお辞儀をする。名はリリィだった、確か。
お告げ通りに私は黒い傘を手にしてカーター・レーンを抜け、セント・ポールズ・チャーチヤードに出る。
黄色の絨毯に停まる赤のダブルデッカー『道の達人』から観光客が湧いたように次々に現れる。
彼らはセントポール大聖堂を食いつくそうとしているかのように群がり、ピクチャーという名の絵画を撮りまくる。
カメラ越しに写る大聖堂はいかに歪んでいただろうか。
興味本位の興味というだけの着飾った観光など、何が面白いものか。
ガイドブックに沿ってなぞらえるだけの旅に満足するだけのツアー客なのだ。
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