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「ロンドンにはいつ来たんだい?」
「二日前に。バースによってからこっちに来たの」
「バース?温泉にでも?」
「いえ……ただの観光。こんな姿じゃ入れないわ」
自分の腕に触れながら彼女はそう口にする。
その様子を窺いながら私は話を続ける。
「マンチェスターはどうだい?」
「まずまずね」
「1ストーン痩せたのは向こうに行ってから?」
「そうね……でも、ここにいた時からそう変わらないわ」
彼女の顔が陰るのが見える。
「ファントムが嗅ぎつけた?」
私の言葉に首を横に動かす。
「いえ……まだ居場所を知られてはいないけど……どこかで待ち伏せされてるんじゃないかって、怖くて」
「ロンドンを離れるべきじゃなかったと僕は思うよ」
「でも、ロンドン市内じゃ、どこにも居場所はないわ」
彼女は孔から零れ落ちそうな目をこちらに向ける。
「どちらにしても一人でいるのは危険さ。いつでも家に誰かがいるような、彼が手を出せない環境に住むのが一番だ」
「でも、誰かを危険な目に遭わせるわけにはいかないわ」
出会った時の面影はなく、チワワのように大きく丸いその目と細く尖った鼻が目立つ。
「君にとって、今の状況がいいとは考えられない。マンチェスターに引っ越しても不安の多い日々を過ごしているわけだろう?このままストレスを抱えていても、何もいいことはないだろう?」
「なら、私はどうすればいいの?」
アナは困惑した様子で震えた声を出す。
「だから前にも言っただろう?僕らは離れちゃいけないって。近くにいた方が奴だって簡単に手を出せない」
「でも……」
戸惑う彼女を諭す神父のように、私は言葉を続ける。
「アナ、何も君だけが苦しむことはない。僕と一緒に闘おう」
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