血まみれのナッツ (Bloody nuts)

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「お帰りなさいませ、ご主人様」  家の玄関前で犬のように迎え出るリリィ。  大きな白いバスタオルに包まったように見える、上下繋がったネグリジェとガウンの中間のようなナイトウェアを着ていた。 「先に休んでいていいと言ったはすだ」 「すみません。眠れなかったもので……」 「まあ、いい」 「それと、あの後にお買い物にも行きました……」 「いくら?」 「全部で18ポンドほど……」 「なら、20ポンドでいいか?」  5ポンド紙幣を4枚財布から抜き出し、彼女に渡そうとしてそれをわざと床にばら撒く。  彼女は嫌がる素振りも見せずにそれを拾う。 「いや悪い、リリィ。手が震えて……」 「いえ」 「それも、教会に持って行くのかい?」 「はい」  忠実過ぎる彼女は実は拾い物なのだ。ピカデリー・サーカスで拾った物乞いだ。  腐るほどいる物乞いの中で彼女は一風変わっていた。  小奇麗な貴婦人のような格好をして、まるで悲劇のヒロインであるかのように通りを行く人々に自分のここまでの経緯を語るのだ。  中にはそれを哀れむ者もいて、彼女に小銭をやる。  そこで稼いだ金は当然自分の食糧に使われるのだろう、と考えていた私の前で彼女は通りがかったシスターに『これを私よりも貧しい人たちのために使って下さい』と言い、スカーフに包まった硬貨を手渡した。  彼女を捕まえて、なぜそんなことをするのかを問うと『私はお腹が満たされたいわけではありません。心が満たされたいのです』と。  どうしてそんな不利な格好で行うのか、と問えば『身だしなみは心の表れです。金銭的に貧しくとも、心は貧しくないと。それを主張するための装いです』と彼女は言い切った。  その言葉は私の中の急所を射た。だから私は彼女を50ポンドで雇うことにした。(※The words was hit in bull’s-eye of the inside of me. So I decided to hire her at 50 pounds.《50 pounds= a bullseye(money slang)》)  だからと言って、私は何も彼女の慈善に感動したわけじゃない。  本当に彼女が慈善を目的とした労働を続けるのかが知りたかった。
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