血まみれのナッツ (Bloody nuts)

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 金持ちの暇人、と思われるかもしれないが、私自身も決して裕福というわけではなく、父が遺した絵画などの美術品を売って生活をしている。  それでも犬を飼うという、それは見栄を通り越し、恐らく権力を誇示させたいがための人間らしさなのだろう。  こんな主人を持ってしてでも、彼女は寄付を続ける。  その純粋無垢なシスターの存在を神は知っている。だから私とは違い、彼女の心は満たされ続ける。  そんな清純なシスターを一度でも部屋に連れ込めば、自分の愚弄さが染み出して、取り返しのつかない事態に発展することは予想できた。  そもそも、彼女の語った生い立ちがノンフィクションだとすれば相当な深手の負った犬ということが窺える。  そんなものに手を出すこと自体、間違いなのだろう。 「ご主人様、顔色がよくありません。お休みになってはいかがですか?」  私の脳内など知る由もない彼女はイングリッシュ・ブレックファースト・ティーの上澄みのようなブラウンの瞳をこちらに見せる。 「いや。今からカモミールティーを淹れようと思うんだが、君は飲むかい?」 「私も頂いて宜しいのですか?」 「ああ。もちろんだ」  浅黒い肌で余計に白く感じる、ミルククラウンのような彼女の歯が口元から覗く。 「ありがとうございます」  もし私の仮面が剥がれたなら、それはファントムよりも醜い姿かもしれない。  そんなシャドウ(幽霊)は彼女を住まわせた数年前よりも昔からこの家に潜んでいる。  紳士などと名づけられた社会的階級のアミュレットで封印させられていただけの悪霊に過ぎないのだ、人の本性というものは。  そうでなければ説明がつかない。  市場で見た幽霊はファン・トム(※愛好者トム)だったが、あの場所に行く度に私の頭にはかつての陰惨な刑に散った残骸が浮かんでいた。  それを中世の人々はサーカスでも見るように、娯楽の一環として処刑される罪人を眺めていた。    その野蛮で卑劣な血は間違いなくこの身体にも受け継がれているだろう。  だからこんなにも酷い行いができるのだ。
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