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プロローグ
とても眠い。
ふわふわしている白くて柔らかい光に包まれて、とろとろと眠りに吸い込まれてしまう寸前のぬくもり。それにお陽さまの匂いをたくさん孕んだ羽毛の布団があれば、それだけでもう僕は満足できる。
そう思いながら、僕は大きなあくびを一つした。
そのせいで涙が目尻に少し滲んだ時、僕の背中がシャーペンの頭の部分でつつかれた。
少し顔を傾けるようにして振り返ると、後ろの席に座るチャコちゃんが顎で前方を示すようにした。よく分からないまま前に顔を向けると、エリザベス先生が少し怖い顔をして僕を睨んでいるところだった。
「レンくん、だいぶ余裕そうね。来週の期末試験は準備万端なのかしら?」
くすくすと教室に笑いさざめく声が広がった。
僕は小さく瞬きをして、エリザベス先生に頭をさげた。
「ごめんなさい、その準備で夜更かししていたんです……」
少しはにかんだように声を弱めて言うと、エリザベス先生は大きなため息をついて、教室の皆を見渡した。教室の笑い声が先生の怒りを避けるように静まっていく。
エリザベス先生は、いつもフリルがついた乙女のような格好をしている。そのフリルの雰囲気とは正反対によく響く声を出した。
「陽気がいいからとぼうっとしていてはいけません。来週の期末試験は、皆さんが世の中という社会に出るための大事なステップです。小さなことと思うかもしれませんが、社会に出た皆さんはいろんな試練に出会います。期末試験を乗り越えてこそ、試練に立ち向かう体力と気力が培われるのです」
また始まったと思うと、僕の瞼が急に重くなってきた。おおげさに手を広げたエリザベス先生の姿が少し揺れているような気がする。
「よいですか、社会は皆さんが思うほど甘くはありません。……レンくん!」
まるで目の前で怒鳴られたかのようによく響くエリザベス先生の声が僕の脳天を貫いた。僕はびくんと身体を震わせて、背筋を正した。
「レンくん、あなたが優秀なのは分かってるわ。でも今度の期末試験は、実技も含まれています。大丈夫なのかしら?」
実技、と聞いて、僕は憂鬱になった。
記述問題は得意だけれど、実技は苦手なのだ。正確にはある実技が、だけど。
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