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社会に出るためとはいえ、ずらりと並んだ先生たちの前で実技試験に臨むのは気が滅入る。それを思い出させられて、僕を包んでいたはずの柔らかい空気が急に萎んでいくみたいだった。
「いい? 皆さん。実技試験は記述試験のように甘くはありませんよ。今回は校長先生も試験監督に加わりますからね、」
そこまでエリザベス先生が言った時、チャイムが鳴り響いた。いつものお説教が始まるとうんざりしかけていた教室内がいっきに明るくなる。その空気の変わりように、エリザベス先生は複雑な表情で教卓の上で教科書をとんとんと整えた。
「気を緩めないで残りの1週間を過ごすように」
エリザベス先生はため息とともにそう言うと、もはや昼食だと湧いている皆の顔も見ずにさっさと教室を出ていった。
「もーう、レンのせいでお説教始まっちゃったぢゃん」
後ろの席のチャコちゃんがもちもちしていそうなほっぺを膨らませて僕の背中をつついた。
「ごめんね、どうしても眠くなって……」
「夜更かしなんてバレバレの嘘つくからだろー」
そう言って僕の首にたくましい腕を回してきたのは、クラスで一番仲のいい虎徹だ。僕はえへへへ、と笑って虎徹の腕からするりと抜け出した。僕を捕まえられなかった虎徹は、そのまま窓に寄ると、お陽さまの方を見上げた。
「まあ確かに今日はひなたぼっこするのにうってつけだよなー」
「だからって授業中に居眠りはないっしょ」
チャコちゃんが席から立ち上がりながら呆れたように僕と虎徹を見ると、仲のいいミーナと教室を出ていった。
僕は天井を押し上げるように大きく両手で伸びをして、またあくびを一つした。その時、教室の戸口から僕を呼ぶ声がした。
「またじゃねーの?」
虎徹がニヤニヤしている。少し困った気分に陥りながら教室の戸口を見ると、出ていったはずのチャコちゃんが手をふっている。その脇に見慣れない顔の女の子がいた。
「わ、美少女ー」
教室の誰かがそう言って、僕に視線が集まるのが分かった。僕は背中がむず痒くなるような気恥ずかしさを感じて、ゆっくり立ち上がった。
「モテメンはツライねー」
虎徹が楽しそうに笑っている。
他人事だと思って。
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