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クスノキの萌えだしたばかりの葉が目にまぶしい。幹に身体を摺り寄せるようにすると、知らない森の匂いが僕を眠りに誘うようだった。
木陰からのぞくお陽さまの光が僕の眼裏でゆったり泳いでいる。
光る風の向こうから、母さんの優しい声が呼んでいるみたいでとても気持ちいい。
その寝入り端を邪魔するように、太陽の匂いを少し焦がしたような虎徹の気配が近づいてきた。せっかくうとうとしかけていた僕は、邪魔されて不機嫌になった顔でうっすら目を開ける。虎徹が両手に食堂のビニル袋をもって立ち止まるところだった。
「わりぃわりぃ、ほら、弁当」
虎徹はまったく悪びれたそぶりもなく、僕にビニル袋を突きつけながら隣にどっかと座った。虎徹は僕がいつも告られるとこの場所を選ぶと知っている。
「シトリンのソーダ水も?」
「もち」
そう言って虎徹はビニル袋から飲み物をとりだして、僕に手渡してくれた。
シトリン色のソーダ水は食堂のメニューの中でも僕のお気に入りだ。僕は仕方ないと肩をすくめて機嫌をなおすと、ソーダ水のストローをくわえた。
木陰の光にソーダ水の泡がきらきらと光って、その光と一緒に喉の奥を爽やかな檸檬の風味が流れ込んでくるのに僕は満足した。
「ほんっと好きだな、それ」
呆れたような虎徹の言葉に、僕は口許を緩めた。
「なんだろうね、僕と同じ瞳の色をしてるからかな」
シトリンのソーダ水の、空気に透けているような色を見つめながら僕は再びストローをくわえた。
「結局……、また?」
虎徹もやっぱり自分と同じ瞳の色をしたピスタチオ色のソーダ水を飲みながら、ビニル袋から食堂のお弁当をふたつとりだした。今日は鮪がメインらしい。匂いに鼻をひくつかせながら、僕は頷いた。自分でも思ったよりお腹が空いているみたいだ。
「いいよな、レンは。その気ならすぐに子どももつくれんじゃん」
虎徹は学校を卒業したら、すぐに恋人をつくるんだと決めている。そして生涯の伴侶を得たら、たくさんの子どもを産んで、大家族をつくりたいらしい。
正直、僕にはその感覚がぴんとこなかった。どっちかっていうと、自由気ままに暮らせる方がいい。
お弁当の蓋をとると、焼いた鮪と色とりどりの野菜、ご飯が盛りつけられている。僕はそれを見ただけで鳴ったお腹をなだめるように、早速いただきますをした。
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