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「子どもより、僕はパートナーがほしいから」
「知ってっけどさ、でも理想のパートナーなんて早々見つからねーよ?」
「分かってるよ。それでも見つけたいんだ」
僕は火の通った鮪を丁寧にほぐして、口に運んだ。虎徹はかぶりついている。鮪は虎徹が好きなメニューだ。
僕と虎徹はしばらく黙ったままお弁当に集中した。
社会に出れば、どんな危険が待っているか分からない。事故に遭うことも、天災に巻きこまれることも、病気にかかることも、同族でケンカになることもある。
何より、人間に僕たちが猫族だとバレないように生きなくてはならない。
息をひそめるように生きていく中で、自分の理想のパートナーを見つけることは簡単じゃない。なぜなら、僕がいうパートナーとは人間のことだからだ。しかもいろんな試練を乗り越えて出会えたパートナーが理想的とは限らない。むしろ反対だと不幸に陥ることだってある。最悪の場合、命を落とすことだってある。
そうならないためにも、学校ではあらゆる最悪のケースを想定した授業が行われてきた。相手を見極める訓練をする授業だってあった。だから大丈夫、とは言えないけれど、それでも僕は猫族で暮らすより、人間のパートナーを見つけるという選択をしたかった。
「オレ、お前がのたれ死んでたなんてニュース、聞きたくねーからな」
沈黙の合間に、ぼそっと虎徹が呟いた。
「やめてよ」
僕は笑って、虎徹の肩を軽く拳で殴るようにした。それでも虎徹は無言のまま鮪のなくなったお弁当をじっと見つめている。僕はなんだか笑えなくなって、行き場を失った拳を開いてシトリンのソーダ水を手にして、温くなってしまった液体を飲み干した。抜けてしまった炭酸を捕まえるみたいに、僕は大きな声を出した。
「僕は大丈夫。きっとパートナーを見つけてみせるよ」
「……そう、祈る」
虎徹が僕のことを心配して言ってくれているのは分かっている。学校を卒業して、家族をつくる選択の方が僕たちには安全だってことも、分かっているつもりだ。
でも僕は、どうしても人間のパートナーを見つけたい。
いや、探したい。
小さな頃に見つけた、あの人を。
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