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第一章
あふ、と空気が漏れるような音をたてて僕はあくびをしながら、伸びをした。丸まっていた身体がお陽さまの光に反応してほぐれていくみたいだった。
「レン、モーニン。今日から期末試験ネ」
母親がエチオピア人の血をひいているマリクがカーテンを開けながら僕に白い歯を見せた。マリクは一学年下の僕の寮メイトだ。反対側のベッドを見れば、すでに布団はきれいに片づけられていた。
「寝坊するヨ」
なぜか片言言葉が抜けないマリクの言葉をぼうっと聞きながら、もう一度ベッドに潜り込もうとした。
昨日の夜は珍しく月がきれいで、思わず寮の屋根にのぼって月光浴してしまったせいだ。
「レン、卒業大事。パートナー、見つける。デショ?」
パートナーと聞いて、急に世界の輪郭がはっきりしてきた。
期末試験を終えれば、晴れて僕たち3年生は卒業になる。卒業したら、今までのように親や先生が守ってくれるわけではない。
僕はもう一度大きく伸びをすると、ベッドから降りた。
これまで学校で習ったことの集大成を確認される大事な試験の日だ。
いつもよりは素早く制服を身につけ、鏡を見ながら軽くウェーブした猫っ毛を整える。落ち着かせたミルクティーをずっと薄くしたような、陽の光に通せば白金にも見える髪色は、僕の母親から受け継いだ色だ。
「レン、頑張って」
僕はカバンを手にとると、マリクに手を振って寮部屋を飛び出した。同時に寮の玄関で虎徹を見かけて、互いにおはようと声をかける。二人ともいつもより声が固いのは、やっぱり期末試験の日だからだと思う。
「気が重いわー」
「それ、言わないでよ」
早足で校舎に向かいながら、僕はお陽さまの眩しさに手で影をつくった。まるで期末試験をふっとばしそうなほどに暑い。この前までの柔らかな日差しはどこにいったんだろう。
「レンは記述問題、得意じゃん」
「……猫化が苦手なの知ってるくせに」
「猫化だけだろ」
「猫化が一番大事でしょ、生きてく上で」
「ま、な。学校始まって以来、レンほど猫化が苦手な猫族って、聞いたことねーもんな」
大口を開けて笑った虎徹の腹を殴る。痛がった虎徹が僕の頭をぐしゃぐしゃとかき回した。せっかく整えた髪が台無しだ。僕はムッとすると、校舎に向かって逃げるように走りだした。
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