第一章

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 卒業のための期末試験は、逃げる、猫化する、人化するの3つの実技と、人間の世界や猫族の知識を問う記述とが行われる。  記述試験はなんの問題もない。学年でトップクラスの成績を維持してきたのだ。  問題は実技だった。逃げることも、人化することも僕は無難にこなせた。むしろ逃げることなんて、学年でトップを虎徹と争うくらい得意だ。  でもなぜか、普通に皆がこなせるはずの猫化だけが苦手だった。  エリザベス先生がこの前、実技を僕にあえて指摘したのも、僕が学年で一番猫化がヘタだからだ。  なぜかなんて知らない。こればかりは本能で行うもので、練習したからといって頭でできることでもないのだ。  僕は走りながら、周りに増えてきたクラスメイトに挨拶をしたりされたりしながら教室に飛び込んでいった。 「レン、はよー! 走ってきたんー?」  自分の席にぼすんとカバンを投げて友人に答えていると、虎徹が教室に飛び込んでくるのは同時だった。 「虎徹、負けたんー?」  クラスメイトに軽く小突かれながら、虎徹が少しムッとした顔で僕の前方の席にカバンを投げた。虎徹は走ることだけは僕に負けたくないのだ。 「フライングだかんな」 「逃げるのに、フライングも何もある?」  僕がにやりと笑うと、虎徹は小さく唇を突き出して、僕の頭を軽く教科書ではたいた。朝走ったせいか、期末試験だからという緊張が解けている。 「あいっかわらずガキみたいなことしてんのねー」  後ろの席のチャコちゃんが呆れたように僕と虎徹を見ている。サファイヤの瞳がきれいなのに、据わっているから冷たい氷のようで怖い。虎徹と二人で寒気を感じると笑いあってチャコちゃんの周りの温度がさらに低くなった時、チャイムが鳴ってエリザベス先生が入ってきた。 「はいはい、席につきなさい。記述問題を配りますから余計なものは机の中に閉まってー」  先生の手にはずっしり重たい記述問題の用紙が抱えられている。  さっさと終わらせたいと思っている僕とは反対に、前の方の席では虎徹がすでにげんなりしているのが見えた。僕は前から回ってきた記述問題の薄い冊子を開いて、さっそく問題に目を通しはじめた。  問題は大きく分けて、人間社会について、猫族について、処世術についての3つに分かれている。ほとんどが○×形式だから、そんなに悩むことはない。
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