第一章

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 例えば、問い1。人間は言葉を話す動物である。  僕は答案用紙の問い1の部分に、すぐに○をつける。こんなのは簡単だ。でも大事なところは記述式になっている。  問い3、人間は働くことを至上の喜びとしている。それはなんのためか。  お金のため、と書いてしまいがちなひっかけ問題だ。僕は鉛筆を軽く回してから、答案用紙に幸せのため、と書きこんだ。  問い4、問い3で書いた答えを具体的に説明せよ。  僕は少し悩む。どんな幸せのために、人間は働くのだろう。だいぶ前にエリザベス先生が言っていたことを思い出そうとする。  確か、働くことで家族や恋人といった大切な人の笑顔を守るため、じゃなかったっけ? それとも働くことで自分の好きなことを充実させるため、だったっけ? いや……働くことで他に奉仕するため、……どれも言っていた気がする。  僕は適当にまとめて答案用紙に書きこむ。  人間社会については問題の数をクリアする毎に難易度があがっているようだった。それに比べて全体的に簡単なのはやっぱり猫族についての問題。  問い、猫族と猫は同じである。×。似て非なる生き物だから、猫族と猫は出会っても決して近付かない。むしろ毛嫌いしているかもしれない。  問い、猫族は人化して過ごすのが基本だ。○。だから普段からこうして人の姿をとっている。猫になんて戻らなくたっていいと思うんだけど。というのは、僕が猫化するのが苦手だからだ。  問い、猫族は人間社会にまぎれて生きている。○。多くの猫族が人の顔をして生きている。猫族はお互いに独特の嗅覚で相手を認識できるから、街の中でばったり出くわすとつい知り合いだったかのようにLINE交換なんかしちゃうらしい。  問い、猫族は人間に恋をしてはならない。……どっちだっけ? 僕はしばらく考えこんで、×に丸をつけた。恋に種族の違いなんて関係ない! とか思っちゃったりして。  僕はわずかに悩みながらも、順調に記述問題をクリアしていった。  残る2問を解いていた時、エリザベス先生が時計を見るのが分かった。慌てて最後の問題を解き終えた時、エリザベス先生が「そこまで!」といつも以上によく通る声で終了を告げた。  いっせいに脱力した声が教室中にあふれた。
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