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「さあ、昼食を終えたら実技試験です。皆さん泣いても笑ってもこれが最後ですからね、気合いいれて頑張ってください」
エリザベス先生は穏やかに微笑むと、答案用紙を手にして教室から出ていった。それを見送った僕たちは、悲喜こもごもの息をもらした。
僕は肩を軽く回すと、窓の外を見た。
泣いても笑っても、最後の実技試験だけ。それがクリアできたら。
その先を思い描いて、なんだか気持ちが落ち着かなくなった時、前から虎徹が暗い顔でとぼとぼと近づいてきた。
「レンー、オレだめだわー」
そう言って、がっくりと僕の席の前に膝をついた。僕は一瞬笑いそうになって、慌てて渋面をつくった。
「そんなにミスったの?」
こくんと頷く虎徹の背をゆっくりさすると、虎徹は泣きそうな表情で顔をあげた。
「レン、オレ卒業できなかったらどうしよう……」
「大丈夫だよ、いつも通りやれたんだろ?」
「いつも通りって赤点ギリギリラインのこと言ってんの?」
僕が大きく頷くと、虎徹はムッとしたような顔で立ち上がった。
「バカにすんなー!」
わめきながら虎徹が僕にじゃれるようにのしかかってきた。僕は思わず笑いながら、虎徹の攻撃を避けるように席の間を走り回った。呆れた女子と、「やれやれー」と応援する男子に分かれて、試験の合間だというのに教室が盛り上がる。
こんなたわいもない時間が卒業したらなくなると思うと、ちょっと淋しい。
「虎徹、ごめん、ごめんってば。次はさ、ほら虎徹の得意な実技じゃん。それで巻き返せるよ」
追いかけてくる虎徹をなだめるように、僕はいかに虎徹が得意な実技でかっこいいかを誉め称えた。それにまんざらでもない虎徹は、渋々といったように追いかけるのをやめる。
「しゃーねー。次はオレの出番だからなー」
「そうそう、虎徹がんばれよー。オレら、レンと虎徹とどっちが実技勝つか賭けてんだから」
賭け事好きの将たち男子数名が後押しするように騒ぎ立てる。
「賭け金、いくら? 僕が勝ったら何かおごってよね」
僕はすかさず将にそう言うと、虎徹が「オレが勝つに決まってる」と将に詰め寄っていく。体育系の鍛えられた身体をした虎徹に見下ろされて、将がへらへら笑いながら、逃げる算段をしているのが分かる。きっと将は僕に賭けてくれたに違いない。
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