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ファミリーレストランのボックス席。
肩が触れ合わない程度の距離で、僕は胡桃(くるみ)の横に並んで座っている。
向かい合うより、並んだ方が資料が見やすいだろうと、僕が勝手に移動したのだが、本当の理由は、柔らかな香りを近くで感じたかったからだ。
「もう…学生じゃないんだから」
彼女は笑って照れ隠しをしたが、嫌がる素振りはなかった。
食事は、ついさっき済ませて、今お代わり自由のコーヒーを二つ頼んでいる。
テーブルには、広げた資料で、もうコーヒーをのせるスペースは、端っこしかなかった。しかし僕たちは、そんなことを気にせずに、意見を出し合っていた。
さて、この打ち合わせは何度目なんだろう。資料を見ながら、そんなことを思った。
今日の休みは、ウエディングドレスの下見と、サイズ合わせで一日が潰れた。
疲れていないと言えば嘘になるが、その疲れをもいとおしい。
なぜならば僕の人生で今が恐らく最高の旬。輝ける日々だと言っていいはずだからだ。
「胡桃(くるみ)のとこは、親戚何人呼ぶ?」
「うーん。何人になるかなあ。ねえねえ、耳に鉛筆挟むのやめなよ」
「あー悪い。つい…」
ぼくは、披露宴の招待席の表を見据えて、腕を組んでいた。
今日中に出席者をあらかた決めて、ウェディングプランナーにファックスしなければならないのだ。
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