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おいおい、二人とも家を出てまだ数年だろう。
仕事だって頑張り時じゃないのか?
「だってお父さん、料理出来ないんだから。どうやってご飯食べるのよ」
肩をすくめる娘が重たそうな荷物を息子に押し付けた。
「ちゃんと私、お母さんに教わってたからね、料理」
女同士の秘密のメールや電話は、料理や家事の相談だったかな。
「これからは毎日、私がお母さんのかわりをするよ」
「俺だって……! なんでも言ってくれよ」
荷物を持たされてフラフラしている息子に、思わず笑みがこぼれてしまう。
「ああ、ありがとう……」
娘と息子と共に、君と過ごした家に入る。
君の「おかえり」は、ぼくの心の中でいつまでも繰り返される。
おっと、そうだ。
今日ばかりは、これはぼくの台詞だろう。
ぼくの事を案じてくれた娘と息子に。
これからよろしくと、頼りにしていると気持ちを込めて。
「おかえり」
さて、この取り急ぎ引っ張り出した喪服は、どうしたらいいのかな。
君の写真はどこに置けばいい?
ぼくの「ただいま」は、これからも真っ先に君へ言うよ。
*end*
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