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そうだった、さっき、家に帰ったら風呂、その前に弁当箱といったが、とても大事な事を忘れていた。
玄関の扉が開く音を聞き付けて、ある日は台所から。ある日は茶の間から、時々トイレから出てくる君が「あら」と顔を出すんだ。
蒸してしまった革靴を脱いだところで、後ろから、外から声がした。
「あー、お父さんの方が早く帰ってた!」
「姉ちゃんの運転がトロいからだろ?」
「うるさいわね、安全運転なの!」
もう季節は日が長くなる夏で、辺りは暗くなり、星まで空に浮かぶという事は、もうかなり遅い時間だ。
あまり外で騒ぐもんじゃない。
「こら、静かにしなさい」
玄関を開けてそう嗜めると、睨みあっていた娘と息子がハッとしてこっちを見た。
そして笑顔で声を揃える。
「「お父さん、おかえりなさい」」
ああ、そうだ。
それだ。
家に帰ると一番に君の「おかえり」を聞くのが、いつもの流れ。
オーソドックスなカレー、冷やし中華。
いつもの「おかえり」
娘が大きな荷物を持ち上げて笑った。
「私、こっちで暮らすから。よろしくね、お父さん」
息子も負けじと「俺も」と言う。
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