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そして、庭にはお父さんとお母さん。
二人の笑い声が聞こえる。
とても、幸せそう。
でも……。
二人の存在は、私の心に暗い灯をともし、凍った毒の沼地のようなものが私の中に存在していたことを思い出させる。
お父さんとお母さんの声。
いやだ。
聞きたくない。
どうして、二人ともここにいるの?
ここにいちゃ、いけないのに。いけないのに。いけないのに。
涙ぐむ私を気づかい、おばあちゃんが私のそばによりそう。
「五目ご飯よそってあげるからね。おかわり沢山あるよ」
おばあちゃんが笑って、五目ご飯をよそってくれる。
ゴボウの香りが鼻をくすぐる。
少し大きめのお茶碗に丸く山なりに盛った五目ご飯。仕上げにおばあちゃんが箸を真っ直ぐに直立させ、底までさしこんだ。
「ごめんね、おばあちゃん、私、お腹いっぱいで食べられないよ」
「そうかい」
おばあちゃんは私が食べられないのをあらかじめ知ってたかのようにうなづく。
「今度は本当に帰ってらっしゃい」
おばあちゃんが玄関先で名残惜しそうに見送ってくれた。
微笑み、私に軽く手を振る。
「来年もみんなで待ってるからね」
おじさんとおばさん、子供達も手を振って笑っていた。
「また来るから」と私も手を振って別れを惜しむ……。振りをする。
ろうそくだーせー だーせーやー
ろうそくだーせー だーせーやー
だーさーないとー かっちゃくぞー
おーまーけーにー 噛みつくぞー
玄関先で歌う子供達が、私を現実に引き戻す。
この時期になるたびに繰り返す白昼夢。
待ちかねた子供達がチャイムを数回鳴らしたが、私は出なかった。
あきらめて立ち去る子供達の影がドアガラス越しに見えた。
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