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ろうそくだーせー だーせーやー
ろうそくだーせー だーせーやー
だーさーないとー かっちゃくぞー
おーまーけーにー 噛みつくぞー
田舎の盆祭り。
はっぴを着た子供達の脅し文句……ではなく、かわいいおねだりの歌声が街の通りのあちらこちらで響く。
「おかえり」
黒豆みたいに照りのある目をしたおばあちゃんが私を家に迎え入れた。
「お盆の時ぐらいしか顔を見せに来ないんだね」
おばあちゃんは、寂しそうな顔で私にそうつぶやいた。
奥には五、六人の子供達がいて、丸いちゃぶ台を囲んでいた。
私は急に数が数えられなくなって、何回数えても五人なのか六人なのか分からなくなってしまう。
まるで、五人か六人かどちらかにしてはいけないと誰かに言われてるみたいだった。
ちゃぶ台の上には、自家製の大根と菜っ葉のつけもの。砂糖と醤油で煮込んだ煮物。鮭の焼き魚が山盛り。黒豆の煮豆。おひつに入った白いご飯とあつあつのお味噌汁。
「花の好きな五目ご飯も炊いといたからね」と、炊飯ジャーを指し、おばあちゃんが満足そうに笑う。
さらに奥の和室には布団がしいてあって、房子おばさんと丸い顔のおばさんが座りこみ、談笑していた。
「あんただったら、幸せそうな顔して」
丸い顔がもっと丸くなって、笑顔が咲いた。
「やだ。姉さんったら」
丸い顔のおばさんは、数年後、ガンで死ぬ。
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