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「おはようございます。御朝食をお持ちしました」
翌朝。
悠斗は聞き覚えのある一声で目を覚ます。
部屋のドアを開けると犬耳の少女――スピカがお盆の上に食事を乗せて203号室の前に立っていた。
「ああ。どうもありがとう」
その日の朝食はライ麦パン、玉葱のスープ、羊乳のヨーグルトであった。
お世辞にも食欲をそそる食事とは言い難いものではあるが、この世界に来てからというもの何も口にしていない悠斗にとっては十分過ぎるほどの御馳走に思えた。
「そう言えば昨日は受付にいたみたいだけど……キミがこの宿を取り仕切っているのか?」
「あははっ。そんなはずありませんよ。私は単なる雇われの女中に過ぎません。女将さんは今、厨房で朝食を作っている最中ですよ」
「へー。折り入って少し聞きたいことがあるのだけど大丈夫かな?」
「はい。私に分かることであれば何でも仰って下さい」
「仕事を探しているんだ。この街で日雇いアルバイトとかを募集している店に心当たりはないかな?」
オークたちから奪った資金が想像以上の額であったため、当面の生活の目途は立ったものの、このままでは所持金は目減りする一方だろう。
そのため。
悠斗は次なる目標を安定した『収入源』を見つけることに定めることにした。
「仕事……ですか。失礼ですが、お客様は何か特技などはお持ちですか?」
「……いや、特に。強いて言えば、小さい頃から武術を習ってきたことくらいかな。たぶんだけど、それなりに腕は立つ方だと思う」
悠斗の言葉を聞いたスピカはピコンと犬耳を垂直に立てる。
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