序 ウサギとオオカミ

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教室でちらっとだけ見た志狼さんは大人しそうな雰囲気で、虫の一匹も殺せそうにないか弱い女の子っぽかったのに。 人は見かけによらないってこういうの? 意外性が過ぎて逆に怖いよ。 「志狼さんって運動神経抜群なんだよね。中学の時には柔道の全国大会で三位くらいだってらしいよ。人見知りみたいであんまり誰かと話してるところ見ないけど、体育祭なんかは一躍ヒーローだよね」 「去年はヤバかったね。借り物競争の全学年毎年恒例の『美人だと思う生徒または先生(お姫様抱っこで)』っていうお題を難なくクリアしたのは彼女だけだった…」 「当時の生徒会長、確かに美人だったよね」 「うん。男だったけど」 懐かしむ瞳が羨ましい。その回想、私も一緒にしたいです。置いて行かないで。 なんて思っていると志狼さんが教室に戻って来た。さっきまで中庭にいたのにホント足速いな。 目にいっぱい溜めた涙を拭いながら、しょんぼりとした背中で自分の席に着く。 ああやって見たら普通の女の子だ。 志狼さんが戻って来て間もなく、予鈴が鳴る。 次の授業の準備をしていなかったと教科書を探ると、さっきまで話していた前の席の子がこちらを振り返った。 「いきなりでびっくりしたと思うけど、まあ楽しい学校だからさ。よろしくね」 そう言って笑いながらピースをするその子に、私も思わず笑みが零れる。 なんだか志狼さんのおかげで友達が出来たみたいです。 転校初日、幸先が良い。 この後の授業が終わる度に兎叶くんが飛び込んで来て志狼さんが逃げ出すというのを繰り返し目撃した私は、たった一日でこのウサギとオオカミの逆獲物狩りに見慣れてしまうのだけど、それは少しだけ後のお話。
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