序章:忘却少女

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001  三浦美津子は急いでいた。  小走りに住宅街のジグザグを縫って、妹の家へと向かっていた。 (はやく、急がないと……!)  息を乱しながら美津子は呻く。  彼女の元に碧子からの連絡が届いたのは、つい三日前のことだった。  ――知っているとは思いますが、まずい状態になりました。  ――噂が広がりきるまでに夫と日本を立ちます。もう戻ってこれないかもしれません。  ――子供にまで咎を負わせたくない。遠く、誰も噂を知らない場所で育ててやってほしい……もう、姉さんしか頼れなくなってしまいました。  ――金は好きに使ってください。人を傷つけて得た汚い金ですが、どうかあの子のためにつかってやってください。  ――姉さん、不出来な妹ですみませんでした。もし逃げ延びることができたのなら、今度こそ娘に誇れるような母になりたいと思っています。  ――最後に……秀樹さんの葬式に出れなくてごめんなさい。姉さんも、強く生きて。  そして「碧子より」と締めくくられるメールを受け取った美津子は、その時、折り悪くも旅の空にあり、姪が残されている家に向かうには多少の時間を要した。その時間が、三日。子供を一人でいさせるには些か長過ぎる時間であった。  故に、美津子は急ぐ。 (それにしても、急すぎるわ……幾らなんでもタイミングって物があるでしょ)  姪への心配と同時に妹への愚痴をこぼす。  確かに妹の状況は最悪と言っていいものだと理解はしている、が、亡き夫との約束を果たす旅を途中で切り上げざるを得なくなった美津子としては文句の一つでも言ってやりたい気分であった。 (でも、子供に罪はないわ。あの馬鹿は張っ倒すとして――また、会えたらね)  肩で息をしながら立ち止まったのは妹の住んでいた家。美津子は手紙と同時に送られてきた合鍵を使って扉を開ける。  そして、すぐに違和感を覚えた。
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