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千葉県の姉ヶ崎と言う場所に高校の編入試験を受けに行った時だった。
そこは水田と畑、意外なほど田園風景が広がった片田舎、田畑の新緑が美しく眩しかった。
その田畑の真ん中にポツンと近代的な建物がある、それが目当ての学校、養老川高校であった。
オレは、その余りにも都会とかけ離れた風景に、少し戸惑ったが、隣接する畑の片隅で1人の少女を見かけた。
空梅雨の最中、照り返す強い日差しの中で制服に麦わら帽子のまま、一本の鍬を熱心に振るその姿にオレは心を奪われた。
気温は30度を越す過酷な環境の中、でも辛さは微塵も無く、むしろリズミカルに振り下ろす鍬さばきはどこか楽しげに見え、青空と緑の大地の真ん中で、時折顔の汗を拭う仕草が爽やかだった。
都会では見ることの無い風景は印象的で、どこか幻想的にも思えた。
この高校の生徒だろうか、前の学校とはまるで違う価値観、それともその少女がオレとは違っているだけなのだろうか。
車の後部座席から後ろを向いて、立ち込める陽炎に彼女の姿をかき消されるまで、オレはその景色をずっと見ていた。
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