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彼は広間の扉を閉じると壁に額を打った。
「クソッタレが…………」
他の誰でもない元老院に対しての文句。
見下した様な目を思い出すだけで腹立たしい。
「荒れていますね、竜騎士(りゅうきし)さん」
女の楽しげな声に、ユーリイは溜息を吐く。
「私のどこが荒れていると────」
我に返った彼は慌てて剣に手をかけて、プラチナの髪を靡かせ振り返った。
「あら。随分と物騒なのね、竜騎士さん」
真黒な長髪の、肌の白い痩せた女。瞳は雄の孔雀の尾羽根のように、蒼と碧が複雑に絡み合っている。淡い色彩のゆったりとした作りのドレスが巷で流行る中、彼女が纏っているのは腰のくびれのラインがはっきりと出る真紅のドレス。その上に黒のミンクで作られたケープを羽織っていた。目立つ出で立ちだが、それは女の美しさを最大限に魅せている。
「封印の聖女」
「そう。私が封印の聖女……来て、竜騎士さん」
竜騎士なんて陳腐な肩書きではないと、言い訳する間も与えてくれないまま、彼女はユーリイの腕を掴むと廊下を走りだした。止まらない。振り返りもしない。ただ、思うままに風のように走ってゆく。そのうちに中庭を越えて、城の東側の棟の地下へと降りる階段へと誘われてゆく。
向かう先にあるのは封印の間。
「さあ、こちらよ。小さな竜騎士さん」
「小さくなんかない!」
自分でもどうしてそんな些細なことで怒ってしまったのか、後になって恥ずかしくなった。
「ごめんなさい、竜騎士さん」
しおらしく、ユーリイから手を離した聖女。そんな彼女を見ていると、逆に申し訳なくなり焦った。
「その……すまない。聖女殿」
一言謝れば、暗くなった彼女の表情は嘘のように晴れ、えもいわれぬ可愛らしい笑みを浮かべた。まるで、まだ熟れぬ少女のように。
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