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火曜日
きょうも晴れだった。セミは海の話を聞いて、いてもたってもいられなくなった。くらくて、じめじめした土のせかいしか知らなかったので、むねのすくような広いながめに、あこがれてしまったのだ。
ついにセミは森を出て、たびだつことにした。そこで、妹ゼミに会いに行った。
妹のはねはみじかく、とぶことができなかった。外に出てはみたが、空にまうこともできず、木の上をうろうろと、歩き回るだけだった。妹は、あぶないたびには、もちろんだめだと言ったが、さいごには、さよならを言ってくれた。もう会えないことが、分かっていたから。
セミは、いちどに遠くへはとべなかった。森を出ることさえセミにとっては、たいへんなことである。生まれた家ともいえる古い木には、ぬぎすてたぬけがらが、まだのこっていた。もうひとりのじぶんとも、さよならしたあと、セミは元気よく大空にとび出していったのだ。
じぶんでもしんじられないくらい、心も体もかるかった。このまま、海までとんでいけそうな気がした。
古い木のてっぺんには、妹ゼミがのぼってきている。そしてはねをふるわせ、いつまでも見おくってくれた。
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