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「うん、克也の考えてる通りだよ。・・・ゴメンな、克也が落ち込んでる時にこんな話。」
克也は思いっきり頭を振った。
俺は槙のことが知りたい。
続けてくれ、と頼む。
「俺さ、すごく腹が立っていたんだ。陸上が出来なくなったって、いくらだって他に生きる道があったのに、どうして父さんはあんな風になっちゃったんだろうって。父さんを壊した陸上が、俺はたまらなく憎くってさ・・・。」
「それが今どうして・・・。」
「俺、小っちゃい頃からずっと合気道をやってたんだ。足が速かったから父さんは陸上を勧めていたけど、母さんは俺に武道をやらせたいって言ってね。父さんがいなくなってからは、合気道も辞めちゃってボンヤリ過ごしていたんだけど。」
ある日コーチがうちに来て、俺を桜ヶ丘高校の陸上部に誘ってきたんだ。
「えっ、コーチ最初からオマエのこと知ってたんだ?」
「うん、だってコーチは大学時代の父さんの同期なんだよ。俺のこと、赤ちゃんの時から知ってるよ。父さんが亡くなった時も、ずっと気にかけてくれていたんだ。」
そうだったんだ・・・。
きっと部員の誰も知らない話だろう。
「コーチはね、俺が陸上を大嫌いで憎んでることも知ってるよ。だけど、父さんが見てきた世界を一度は見てみるといいって言ってくれてね。最初はスッゲー嫌だったんだけど、何度も家に足を運んでくれてさ。熱意に負けたって感じだよ。」
目を伏せた槙の口元に笑みが浮かぶ。
しかしその表情はやっぱり寂しげだ。
「実際始めてみてさ、どんどんのめり込んでいく自分を感じたよ。でもさ、スタートラインに立つと、どうしても父さんの最期の顔を思い出してしまってね。いつもそれを乗り越えようって、ゴールを睨み付けてしまうんだ。」
あ・・、あの目・・・。
そんな想いがあったのか・・・。
タイムを狙っていたわけじゃなかったんだ。
ただ、ひたすらゴールを目指していただけなのか。
「3年に呼び出されて怒鳴った時、同じ目してたぞ、オマエ。」
「・・・そうだったかな。なんとしても、克也を巻き込みたくなかったんだよ。オマエ、絶対ケンカになっただろうから。万が一にも怪我なんかさせたくなかったし。」
それに・・、あんな下らないことでケチがついて、克也がメンバーから外されたりでもしたらって思ってね。
思い出したくもないというように槙は小さく頭を振った。
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