夕暮れ滴

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その蛇口は、どんなに固く閉めてもいつも小さな滴を垂らしている。 その滴は夕暮れ時になると西日の光に反射して、キラリキラリと輝くんだ。 * 新緑が眩しい5月半ば、放課後の校庭は部活や雑談をする生徒たちで賑やかにざわめいていた。 入学からひと月余り経った新入生は、そろそろ学校に慣れてくる頃だろう。 この桜ヶ丘高校は、名前の通り小高い丘の上に建ち、桜のトンネルが校門まで花道のように続いている。 入学式の後は、たくさんの2.3年生がこの花道で新入生の部活勧誘をするのが恒例だ。 陸上部にも、今年は12名の新入生が入部してきた。 新顔たちはみんな中学からの経験者で、即戦力になる成績を残している者も少なくない。 すでに先輩に並んでタイムを競う者もいる。 「よぅ、槙。もうストレッチ終わったか?」 他の部員と話をしていた須藤槙の背後から、猪瀬克也が声をかけてきた。 夏のインターハイを8月に控え、今日は選抜メンバーの発表の日だ。 2年の槙と克也は共にスプリンター、タイムはまだ克也の方が好成績だ。 「まだ」いうのは、槙は陸上経験が浅いため、克也に追いつき切れていないからだ。 去年、中学陸上部からの引き続きで入部してきた者ばかりに交じって、槙だけは陸上の経験が無かった。 中学時代はコレといった運動はしていなかったという槙に、何故陸上?と克也は不思議に思ったものだ。 “なんとなく・・・。俺、運動不足な気がするし”と天然めいた発言で入部してきた槙は、入部テストの測定でそこそこのタイムを叩き出した。 荒削りながらも素質があるとコーチがつぶやいた通り、槙はどんどん頭角を現してきた。 トレーニングなんてしたことがなかった分、一から作り上げていく身体は確実に陸上競技者の筋肉を身に着けていった。 油断していると、あっという間に追い越されそうな勢いだ。 「あー、あと足首やんなきゃ。」 「そこ、一番大事なところだろ?しゃべってる場合じゃないだろうよ。」 「んだね。克也、手伝ってよ。」 槙と話していた部員は、3年の先輩に呼ばれて行ってしまった。 コンクリートの上に座って、槙は克也に右足を差し出す。 克也は黙ってその足首をつかむと、ゆっくりと回しはじめた。 ほんの少しの引っ掛かりを、少しずつほぐしていく。 「ちょっと硬いな。」 「ん、やっぱり?なんとなくそう思ってたんだけど、なんでかなあ。」
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