夕暮れ滴

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スタミナ抜群の長距離ランナーの彼は、中盤からの追い上げに強い選手として他校からも一目置かれた存在だ。 何名かの3年の出場選手を呼び終えると、呼ばれなかった先輩たちはあからさまに肩を落としている。 どんなに頑張っても、結果が全ての勝負どころは残酷だな・・・と槙は横目で見ながら思った。 2年からは、まずは村上と競い合えるほどの実力を持っている、長距離ランナーの鈴木凱斗が呼ばれた。 スプリンターの椅子はあとふたつ。 2年には3人、1年には4人いる中で、誰が選ばれるのだろう。 コーチがチラリと克也を見た。 「猪瀬、それから山本。」 克也と共に選ばれたのは同じく2年の山本大樹だった。 ふたりとも中学時代からコツコツと努力を積み重ねてきた人間だ。 喜びと同時に、選抜としてのプレッシャーが二人を襲った。 「やったな、克也。」 槙が嬉しそうに肩を叩いた。 2年のスプリンターの中で、たった一人メンバーに選ばれなかったというのに、コイツのイイところは相手の功績を素直に喜べるところだ。 「あー、俺ももっと頑張ろうっと。」 腕を高く上げて伸びをしながら、槙は歌うように言った。 そうだよ、来年だってあるんだし・・・と言いそうになって、克也は慌てて口をつぐんだ。 メンバーに入れなかった3年の前で、それは禁句だろう。 しかし、克也が口をつぐんだところで、3年の気持ちが収まっていることは無かった。 槙の一言は、すでに彼らの逆鱗に触れていたのだった。 * 「おい、須藤。ちょっとこっち来いや。」 練習が済んで、克也と槙が連れ立って帰宅しようとしたとき、選抜メンバーに選ばれなかった3年生が突然道を塞いだ。 目の前に立ちはだかる3人に克也は驚いてアワアワとしたが、槙は表情一つ変えず3人の後をついていく。 オマエはついてくるな、と制されて、克也はその場に呆然と残された。 しかし。 あれ?選抜された俺が呼び出し食らうなら分かるけど、何故槙なんだ? 克也は不思議に思って、慌てて槙の後ろを追いかけた。 体育館の裏側まで来ると、3人は壁を背にした槙を取り囲むかのように立ちはだかった。 「オマエ、なんだよ、あの態度。」 腕組みをしながら、顎をしゃくるようにして凄んできたのは、いつも村上に追いつけずタイムが伸びなかった長距離の木崎だ。 村上さえいなければ、俺が・・というセリフを何度聞いたか分からない。
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