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いつもの穏やかさとは似て非なる、もの静かな声色。
それが逆に何を考えているのか図りかねて不気味だ。
「だから、あの態度は何だって言ってんだよっ。これ見よがしに頑張ろうなんて言いやがって。」
「オマエ陸上を始めてから、たかだか2年目だよな。中学からずっとやってきた俺らの気持ちなんか分かんねえよな?結局オマエは真剣じゃないってことだよね。」
木崎は威勢よく怒鳴り、森本は相変わらず嫌味な笑顔だ。
槙はまるで下らない音楽でも聴いているかのような顔をしている。
実際足元では何かのリズムをとっている。
「おい、何とか言えよっ」
勢い余って、木崎が槙の胸ぐらを掴もうとしたその時。
一瞬早くその手首を、恐ろしく強い力が制した。
「手ぇ出しちゃぁ、いけないんじゃないですかね、先輩。」
目を伏せて低い声でつぶやいたかと思うと、ゆっくり顔を上げて槙は鋭い視線で木崎の目を見据えた。
それはナイフのようなオーラを放って、木崎の戦意を切り裂いた。
「お話しだけで、お願いしますよ。」
「う・・・・っ」
焦りを隠しきれない顔で、木崎は手首を掴んでいる槇の手を思い切り振り払った。
友井はすでに逃げ腰だ。
「俺はただ、頑張ろうって言っただけですよ?誰のことだって馬鹿にしちゃいませんよ。ただ・・・。」
口元に、残酷なほど冷たい笑みが浮かぶ。
「そう思ってしまう先輩方は、残念ですね。」
ゆっくり森本の方にも居直る。
張り付いていた笑顔が凍って、森本ももう何も言えない様子だ。
「俺はいつだって真剣ですよ?“たかだか”2年目で、ここまで来ましたから。」
槙が一歩近づくと、森本は一歩後退する。
構わず素早く近づいて、気の毒そうな顔で森本の顔を覗きこむ。
「中学から頑張っていらした先輩の気持ちは、想像しかできませんね。申し訳ありませんが。」
森本の喉がヒクッと鳴った。
「えっと・・・、話はこれだけでしょうか。俺、帰っていいですか?」
体育館の壁に立てかけていたカバンを手に取って、槙は気怠そうに言った。
もう誰もそれを止めようとはしない。
「あ、友井先輩。」
思い出したように振り返る。
後ろを向いている友井はビクッと肩をとがらせた。
「俺、入部当初、友井先輩に可愛がってもらって本当に嬉しかったんですよ?なかなか言う機会が無いから、せっかくなんで今言っときます。」
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