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 樹木の多い、閑静な住宅街だった。  爽やかな風と光に包まれた五月の朝、美原晴(みはらはる)は邸宅と呼ぶにふさわしい家の前で、深い青銅色のアーチを見上げていた。絵葉書を切り取ったような青い空に、クリーム色の石塀とつる草模様の優美な門が高くそびえている。 (おっきい家……)  みずみずしい木々の先に煉瓦造りの建物の一部がわずかに覗いている。  世の中にはもっと広大な、それこそ城のような豪邸もあるのだろうが、都心部のこの場所で青々とした木々に囲まれた広い屋敷を構えているのだ。住人の経済的な豊かさを知るには十分だった。  周囲には豪奢な邸宅群が、世の中の災いを全て忘れたかのように、広く真っ直ぐな道路に沿って建ち並んでいる。  噂に違わぬ高級住宅街だ。  よんどころない事情により住居と働き口を探していた晴は、大学のアルバイト求人サイトに載っていた『ハウスキーパー募集(住み込み可)』に応募して面接に来たところである。  約束の9時まであと五分。  緊張気味に門の近くまで進む。  淡いベージュの門柱にシャンパン色のポストの受け口があり、それと並んでシンプルなインターホンが取り付けられていた。表札は見当たらない。  深呼吸を一つして、インターホンのボタンに指をかけた。わずかな躊躇のあと、意を決してそれを押し込む。  遠くにかすかな呼び鈴の音が聞こえた。  第一印象は大切。唇をきゅっと結んで、大きな茶色の瞳でカメラのレンズを見つめて待つ。  薔薇の花弁が、白くやわらかな頬をふわりとひと撫でしていった。  突然ガチャンと金属音が響き、壮麗な門がゆっくりと内側に開き始めた。 (う、うわっ。電動!?)  開いた門を見上げながら、しばし固まる。入れということかと気づき、恐る恐る一歩中へと踏み出した。  背後で再びガチャンと音がして、門は閉じた。 (う……。)  肩越しにそれを確かめ、前方に視線を戻す。木漏れ日の落ちるアプローチが目の前に現れ、導かれるように石畳の小道を進んでゆく。  薔薇の咲く端正な庭と中央の建物が見える場所まで来て、晴はわずかに息をのみ、目を見開いた。  周囲の家々の様子から、ひときわ広い敷地に建つこの家の建物は相当に厳めしいものだろうと無意識に想像していた。  けれど、目の前に現れたのは思いのほか柔らかな印象の古い洋館だった。赤い煉瓦の壁面に、規則正しく並んだ白い窓のコントラストが美しい。  確かに大きな家だ。けれど、明るい若葉に包まれた古風な姿は、どこか懐かしく温かい雰囲気に溢れていた。 (綺麗な家……)  ジョージ王朝スタイル。  建築学科の学生らしく、その建物の形式を心の中で呟いた。
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